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渇茶的時間 一緒にお茶を

北海道には鰊御殿、台湾には鰻御殿に海老御殿・・・、
フィリピンにはナタデココ御殿・・・、
何かのブームに便乗し、ヒットを当てたら御殿が建つ。
私はこの手のサクセスストリーに滅法弱い。
(かつて鰊御殿を訪れた際にはソーラン節をBGMに
半日ほど鰊御殿で感慨にふけっていたものだ・・・)
憧れなのだ。そう、いつか「お茶っぱ御殿」を建てるその日を
夢見て・・・。(いつの日だ?)

中国の黄山。唐の時代有名な李白もたびたび訪れたとも言われる観光地。1985年には、中国十大観光景勝地として認められ、1990年には世界の自然と文化遺産に登録された場所である。皆さんも一度は目にしたことのある中国の水墨画、その風景としても有名なのが「桂林」と、そしてここ「黄山」だ。「奇松、奇岩、雲海、温泉」が揃った黄山は「四つの絶景」と称されている。

さて、この黄山をなぜ今回題材に選んだかといえば、ここ黄山はあの工芸茶発祥の地である。今では中国には色々な種類、味の工芸茶があり、年々その数も技巧も増えている。が、なんでも始めが肝心なわけですよ。無のところから何かを作り出すという発想。そう、誰がお茶を糸でぐるぐる巻いて、形を作り、お湯を注ぐとゆ〜らゆら茶葉がグラスの中で踊りだすなんて思いつく? 恐らく黄山には「工芸茶御殿」が存在しているに違いない。

黄山・・・私は残念ながらまだ行ったことはないけど、その美しさは写真集やkaoが訪れた時の写真や話を聞いて知っている。

春のうららかな日差しの中、私の想像は膨らんで、気がつけば夢の中。水墨画のような風景の中、私は雲に乗った仙人になっていた。   

黄山に生まれたヒコ(男)は生まれながらにして、体が弱かった。この村での男の仕事は、黄山に観光に訪れた人たちを山頂まで籠に乗せて運ぶという力仕事が多かった。ロープーウェイが山の麓から山頂まで通っているが、ロープーウェイでは面白みがないといって、籠に乗って山を登るというコースを好む観光客も中にはいる。地元の男たちは年頃になると2人1組になって、籠を背負い、毎日、麓で客引きをし、山頂まで運ぶ仕事をしていた。賃金は中国の物価にしてはかなりよく片道あたり、約10000円くらいにはなった。しかし、相当な急斜面の山道である。労働力を考えると、わりの良い仕事とは決していえなかった。

ヒコも友人のヨシに誘われ、学校を出た若い時分に1度、麓から客を乗せ、籠を担いだときがあった。しかし、10分もしないうちに足がしびれ、肩は限界に達し、その場にへたりこんでしまった。

「金を返せ!」と怒鳴るお客に頭を下げ、

「根性なし! 役立たず!」

と真っ赤な顔をして罵るヨシを残し、足を引きずりながら逃げるように家に帰ったことがある・・・。あの日以来、ヒコはこの村の男たちから「女々しいヒコ」とからかわれ、いつしか自ずと家に引き篭もりがちの生活を送るようになってしまった。

黄山には産物として硯(すずり)が有名である。松や鶴、文字を細かく彫りこんだは翕硯は大変有名である。体力はないヒコだが、幸い手先は器用だったため、ヒコは硯の彫子として、毎日毎日、石にせっせとお目出度い絵柄や文字を丁寧に掘り込んでいた。しかし、朝から晩まで硯に絵柄を一生懸命彫っていっても、細かい作業の連続で、1つの硯を完成させるまでに幾日も時間を費やさなければならなかった。それに、気軽に買えるお土産でもないため、丹精込めて作った硯がすぐに観光客に売れるというわけでもない。薄明かりの中、硯をせっせと彫りながら、ヒコはふっと手を止めてこんなことを思うことがあった。

「このままたった1人で、毎日毎日ただ硯を彫っていくだけの人生なのか・・・」

しかし、体が弱く体力のないヒコは、硯をせっせと彫っていくしかなかった。

ある日のことだ。ヒコがいつものように硯を彫っていると、ヒコの家の戸口でトントンという音がした。もう何年もヒコの家の戸口を叩く者などいなかったから、ヒコはきっと風のせいだと思って作業を続けた。しかし、また「トントン」という音がして、今度は「ヒコ、ヒコ、私・・・リンリン」という声もした。ヒコは驚いて、戸を開けた。戸の外に立っていたのは、幼馴染のリンリンだった。

「ヒコ、元気? 随分会っていなかったわ。ずっと家に篭りっきりで、町の青年会にもすっかり顔を出さなくなってしまったし・・・」

ヒコは気まずくなって、再び熱心に硯を彫り始めるしかなかった。
「ヨシたちがあなたのこと意気地なしとか、からかっているのは知ってるわ。でも、気にすることなんてないのよ。人にはそれぞれ得手不手があるのだから。ヨシは確かに体力があるわ。1日、何往復も麓から山頂まで人を乗せて運べる体力があるわ。でも、ヨシのような粗雑な人にあなたのような精巧な硯なんか作れないわ。それに私は・・・」
「お茶でも煎れるべ」
ヒコはそう言ってその場を離れた。ヒコは何だかくすぐったかった。この年になって人に誉められたことなどなかったし、幼い頃から恋心を抱いていたリンリンに言われたのだから尚更照れくさかったのだ。

「お茶さ、煎れてきたけど・・・」
ヒコはリンリンの前に、ガラスの器に入れたお茶を差し出した。
「ヒコ・・・これ?」
「あぁ・・・それは・・・」
それはヒコがたまに硯つくりに飽きたとき、緑茶の茶葉で編んで作ったお茶だった。

「それは・・・男がこんなもん作って情けないべ。取り替えてくるべ」

「ううん! すごいわ! こんなお茶見たこともない! まるで牡丹の花みたい! 緑色の牡丹! ステキじゃない?」

リンリンはそのお茶にいたく感動して、ガラスの器を何度も何度も眺めながら、そして大切に愉しみながらお茶を飲んでいった。

「ヒコ、あなたの硯は大好きよ。でも、硯を彫れる職人はここ黄山にはあなた以外にもいる。でも、こんな素晴らしいお茶を作れる人って、あなた以外にはいないわ! 誰も思いつかないもの! そうよ、ヒコ、このお茶をどんどん作って、そして、麓まで売りに行くのよ! きっと観光客は飛びつくわ! ううん、観光客だけじゃない! 中国人の私だって、こんなお茶が飲めたら幸せだわ! 絶対にウケるわ!」

リンリンは興奮して、そして帰って行った。すごい! すごい! とヒコを褒め称えて。

部屋にはまたヒコだけになった。しかし、いつものように暗く、寂しいという気持ちは消えていた。久しぶりに人がこの部屋に訪れてくれたことに対する喜び、そして、何より自分が気分転換に作ったお茶をリンリンがあんなに喜んでくれたこと。リンリンはそのお茶に「緑牡丹」という名前までつけてくれたこと・・・。

ヒコはその晩、器用な手先を使って、また1つ編んだお茶を作りあげた。それはのちに、その茶葉の丸い形から「仙桃」と名づけられることになる。

ヒコは自分のため、リンリンのため、また黄山を訪れる観光客のために、次々と新しい編んだお茶を作った。ヒコが編み出したそのお茶は

工芸茶

と名づけられ、黄山の新たな名産にまでなった。始めは変わった形をしたものを作っていったが、そのうち、中に花を入れたもの、幾連にも花を重ねたもの・・・その器用な手先は人が思いつかない技法を数々作り出していった。

黄山から始まった工芸茶はのちに中国全土に広がり、バリエーションも技巧も年々新しいものが生み出され、贅沢なお茶の時間を愉しむ多くのお茶ファンに愛されている。黄山緑牡丹、黄山小菊が三連になって浮か出す錦上添花、貝の形をしたお茶から小菊が出てくる海貝吐珠、桃の形の茶葉の中から可愛い千日紅の花が浮かび上がる千日紅仙桃、マッシュルームの形の茶葉から鮮やかなゆりの花が出てくる丹桂百合・・・これからもまたいろいろな変わった工芸茶が登場することだろう・・・。

さて、その後のヒコだが、お茶が取り持った縁でリンリンと結婚し、黄山の麓に建つ屋敷で幸せに暮らしている。牡丹の花で囲まれたそのヒコの屋敷を地元の人は工芸茶御殿と呼んでいる・・・。

気がつけば、ここは何処? 私は誰? 仙人? まさか・・・。夢から覚めれば日はどっぷりと暮れていた。そういえばリンリンは私が演じて・・・ヒコの顔は永井大にそっくりだった。(どこが体が弱いんじゃ?)

【追記】

黄山緑牡丹・・・安徽省の汪芳氏によって作り出された黄山緑牡丹は、清明から穀雨の間に摘まれた祁門紅茶と同じ種の良質の茶葉を使い作られます。お湯を注ぐと徐々に開き、幾重にも重なった茶葉がまるで中国の国花である牡丹のようです。甘い緑茶の味と香り、そして美しい形で人気の高い工芸茶です。

黄山黄山
 
注釈 工芸茶
黄山
そこは水墨画の世界
ロープーウェイで登りましょう
げっ、故障
歩くかカゴか
う〜ん
歩きます
ちょっと待った
うわぁ
重そう
休憩
期待
くんくん
ジー
ハアハア
更に重い
黄山夕日
 

今月のエッセイはyukaの妄想です。しかし、マンガはほぼ実話です。一生懸命歩いて3〜4時間だったかと・・・。山の上に何軒かのホテルがあるのですがその資材も全て人力で運んだとか。工芸茶にしても、カゴ屋さんにしても日本人には真似できないことですね。
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